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奈良地方裁判所 昭和40年(行ク)1号 決定 1965年7月30日

申立人

川本太郎ほか二名

被申立人

奈良県教育委員会

主文

申立人らの申立をいずれも却下する。

申立費用は、申立人らの負担とする。

理由

(申立人らの申立および理由)

申立人ら訴訟代理人は、「被申立人が申立人らに対しなした昭和三六年三月三一日付各分限免職処分の効力を本案行政訴訟事件の判決確定まで停止する。」旨の決定を求め、その理由とするところは、別紙「申請の理由」記載のとおりである。

(被申立人の意見)

被申立人訴訟代理人は、「本件申立を却下する。」との決定を求め、その意見は、別紙「申請の理由に対する答弁」に記載のとおりである。

(疎明)

一、申立人ら訴訟代理人は、疎甲第一ないし第七号証を提出し、

二、被申立人ら訴訟代理人は、疎乙第一号証の一、二、第二号証、第三、第四号証の各一ないし三、第五号証の一ないし四、第六ないし第九号証、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一三号証、第一四号証の一、二を提出した。

(当裁判所の判断)

一、一件記録によれば、申立人らの申請の理由一および二の事実ならびに被申立人が申立人らに対し昭和三六年三月三一日付をもつて地方公務員法二八条第一項第四号により分限免職処分を発令したこと。また、申立人らから右免職処分は不適法であるとしてその取消を求める行政訴訟を当裁判所に提起し、現在当裁判所に係属(当庁昭和四〇年(行ウ)第三号)していることも明らかである。

二、そこで被申立人の申立人らに対する本件免職処分が理由あるものか、あるいは取消さるべき違法な処分であるかの判断についてはこれをひとまず措き、まづ、申立人らの求める本件免職処分の効力を停止するにつき、行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「回復の困難な損害」を避けるため緊急の必要があるかどうかを検討する。

疎甲第七号証、同乙第一四号証の一、二に申立人ら各審尋の結果を総合すれば、「申立人らは、いずれも、本件免職処分の発令後、日本教職員組合から、生活資金として、申立人ら各自が引続き在職したとして受けるべき給与の相当額の貸付けを受けてきたが、右貸付けは昭和四〇年三月末日限りで打切られるにいたつたこと、申立人川本は、現在、英語科の臨時講師として、大阪工業大学附属高等学校および大阪市にある天王寺予備校に時間給で勤務しており、その収入は、年間を通じ一カ月平均すると、前者では金七、〇〇〇円位、後者では金一萬円余あるほか、固定的とはいえないが、近隣の子供達への補習授業により一カ月金一万円位を得ており、また、最近では、YMCAに週一時間の教授(月三、〇〇〇円位の収入になる見込)にも出向くようになつていること、なお、同申立人が居住する家屋及びその敷地約七〇坪は同人の所有であること、そして、同申立人の家族は、妻のほか、医科大学院に通つている二男(昭和一二年生)がその妻とともに同居しているにすぎないこと、つぎに、申立人田和は、昭和三六年四月から成蹊学園に数学科の非常勤講師として勤務し、現在、一カ月金二万九、〇〇〇円位の給与を得ているほか、大阪市内で高校生、中学生を対象として、英語、数学教授の熟を営なみ、多少生活の足しとしているものであり、家族関係も、妻はなく子供四名と同居しているが、右子供らのうち、長女と二女の両名は、すでに高校を卒え長女は昭和三六年から、二女は昭和三八年からそれぞれ就職しているし他の二名も高校と中学校に在学中のものであること、なお、同申立人は、近畿日本鉄道の西大寺駅附近に約一〇〇坪の土地を所有していること、申立人奥本は、昭和三八年四月から、奈良市の学校法人東大寺学園に定時制課程の英語の専任講師として勤務し、現在では一カ月金二万三、五〇〇円位の給与を受けているほか、なお、同申立人には、普通恩給として、年額で金一〇万四、八六七円が支給されていること、なお、同申立人が居住する家屋及びその敷地は同人の所有であり、また、同申立人の家族は、妻と二人であつて、四名の子供達は、いずれも成人し、無事、他で独立の生計を営んでいるものであること。」が一応認められ、これに反する疎明は存しない。

ところで前記行政事件訴訟法第二五条第二項にいう「回復の困難な損害」とは、当該行政処分をうけることによつて、もし右処分が本来違法で取消さるべき場合においては被ることの予想される損害が金銭賠償により補顛することのできないような性質のもの、あるいはたとえその損害が金銭の賠償をもつて補顛をすることが一応可能であると観念される場合においても、その損害の性質、態様から考えて、損害のなかつた原状を回復することの不可能なもの、もしくは、社会通念上、それが容易でないとみられるものを意味するものと解するを相当とし、例えば俸給を停止されることにより、衣食の途をとざされて、社会通念上基本的な生活を保持できなくなるような場合には、損害は右「回復の困難な損害」と解すべきところ、本件においてこれをみるに、前記各認定事実によれば、申立人らは、いずれも、本件免職処分により、特に日本教職員組合からの貸付が打切られた昭和四〇年四月以降は、生活上、多少の困難が加わつていることを窺えなくないがしかし、現在の生活状態等に鑑み、本件免職処分の効力を停止して俸給を支給しなければ右社会通念上基本的な生活を保持できない程のさし迫つた状態にあるとはいえず、したがつて将来、本件免職処分の取消の判決があつたときには、金銭賠償を受けることにより、被つた損害の回復が容易でないとはいえないから、なお、回復困難な損害を避けるため本件免職処分の効力を停止しなければならないほど、緊急の必要があるものと解することはできないし、その他この点を認めるに足りる疎明資料は本件記録のすべてを通して見出すことができない。

三、以上のとおりであるから、本件免職処分の取消を求める本案訴訟が理由がないとみえるかどうかを判断するまでもなく、申立人らの本件申立はこの点において理由がない。

よつて、本件申立を却下することとし、申立費用については、民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を各適用して、主文のとおり決定する。

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